インボイス制度の対応などに迫られる中、「フリーランス新法が制定!」などと言われると、「なんだ、なんだ?!」「何か対応しなくてはいけないのか?」と気になってしまうフリーランスの方も多いかと思います。
フリーランス新法は、フリーランスを守ることが目的の、クライアント=発注企業側が考慮する必要がある法律です。
さらに内容を見てみると、健全な企業や発注担当者であればすでに遵守しているような基本的な内容が多く、罰則内容も企業にとっての影響度はそこまで高くないと思われるため、実際に影響が及ぶフリーランスの方は多くないかもしれません。
一方で、フリーランスに特化した法律が制定されるということは、事実として問題・トラブルが増えている背景があるということを示しています。
そこで、4000人のフリーランスコンサルタントを抱える『ProConnect』がフリーランス新法についてまとめました。
本記事をお読みいただくことで、法律の内容を把握し、不利益を被るリスクへの事前対策の参考にしていただければ幸いです。
フリーランス新法とは〜フリーランスの保護が目的〜
フリーランス新法とは?
フリーランス新法とは、フリーランス保護新法、フリーランス保護法などとも言われておりますが、正しくは「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(フリーランス・事業者間取引適正化等法)のことを指します。
上述しておりますが、基本的には立場の弱い、フリーランスを守るための法律です。
フリーランス新法は、フリーランスの保護と公正な労働条件の確保を目的として、労働契約法や労働基準法とは異なる規制を設けた法律です。従来の労働法制度が正規の雇用関係を前提としていたのに対し、フリーランス新法は、フリーランス契約や業務委託契約などの特殊な労働形態に焦点を当てています。
いつから施行される?
「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」(令和4年(2022年)6月7日)において、フリーランスの取引適正化のための法制度について検討し、国会に提出されることとなりました。これを受け、内閣官房を中心に、公正取引委員会、経済産業省、中小企業庁、厚生労働省で検討を行い、令和5年(2023年)2月24日にフリーランス新法律が第211回国会に提出され、4月28日に可決成立し、5月12日に公布されました。
フリーランス新法は、公布の日から起算して1年6か月を超えない範囲内において政令で定める日に施行することとされており、遅くても2024年中には施行される見込みです。
フリーランス新法が関係する人は?
・フリーランス=特定受託事業者
業務委託で仕事を受けるフリーランスで、従業員を使用しない人が対象です。個人事業主だけではなく、代表以外に役員がおらず従業員のいない法人(いわゆる”ひとり社長”)も対象になります。
フリーランス側が何かする必要はありません。一方、契約や報酬にかかわるトラブルを未然に防ぐために、理解・把握をしていることは必要です。
ちなみに、従業員とは「週労働20時間以上かつ31日以上の雇用見込み」の人を指し、短期間・短時間の一時的に雇用される人は含みません。また、「業務委託」とは、事業者がその事業のために他の事業者に物品の製造、情報成果物の作成又は役務の提供を委託することをいいます。
・フリーランスへ発注する、従業員を使用する企業
基本的にフリーランスに業務委託で仕事を発注する側に従業員を使用する企業が対象です。消費者や従業員を使用しない企業や個人事業主は対象外です。
フリーランス新法設立の背景〜フリーランスに特化した法的整備の必要性〜
フリーランスという働き方の急増と、それに伴う契約・報酬にかかわる問題の発生
近年、働き方の多様化が進展し、フリーランスという働き方が普及し、フリーランスの人口が増加しています。
ランサーズの調査*によると、フリーランス人口は2015年から2020年にかけての5年で68.3%(640万人)、経済規模は62.7%(9.2兆円)増加したと言われています。2020年1月の調査ではフリーランス人口は1,062万人にも上っています。
*出典:ランサーズ株式会社『新・フリーランス実態調査 2021-2022年版』
労働環境が多様化する中で、それぞれのニーズに応じて柔軟に選択できる環境を整備することが重要となっています。
一方で、実態調査や相談窓口において、フリーランスが取引先との関係で様々な問題・トラブルを経験していることが把握されてきています。
実態調査(令和3年(2021年) 内閣官房ほか)では、フリーランスの約4割が報酬不払い/支払遅延などのトラブルを経験、記載の不十分な発注書しか受け取っていないか、そもそも発注書を受領していない、といった結果も出てきています。
厚生労働省から委託を受けた第二東京弁護士会が運営している、フリーランスとして働く人たちの労働相談に弁護士が無料で応じる「フリーランス・トラブル110番」へは、開設から2年余りで1万件を超える相談が発生しているようです。
トラブルの内容としては、「報酬の支払い」が33%、「契約内容」が17%でこの2つで50%を占めています。フリーランス新法の内容としては、この相談内容に対応するように見受けられます。
出典:厚生労働省『フリーランス・トラブル110番の相談実績について』
こういった背景があり、フリーランス新法が制定されました。
「第一章総則(目的)第一条」の条文に下記の通り記載されているように、国民経済の発展のために「フリーランス」の皆さまの活躍は必要不可欠と捉えられていることが感じ取れます。
この法律は、我が国における働き方の多様化の進展に鑑み、個人が事業者として受託した業務に安定的に従事することができる環境を整備するため、特定受託事業者に業務委託をする事業者について、特定受託事業者の給付の内容その他の事項の明示を義務付ける等の措置を講ずることにより、特定受託事業者に係る取引の適正化及び特定受託業務従事者の就業環境の整備を図り、もって国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。
ProConnectでは、フリーランスによくみられる悩み・トラブルに関するコラムを投稿しております。こちらもあわせてお読みください。
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問題の原因は「個人」と「組織」の立場の格差
一人の個人として業務委託を受けるフリーランスと、組織たる発注事業者との間には、交渉力や情報収集力の格差が生じやすいことがあると考えられます。
例えば、①従業員がいないフリーランスは時間等の制約から事業規模が小さく特定の発注事業者に依存することとなりやすかったり、②発注事業者の指定に沿った業務の完了まで報酬が支払われないことが多い、といった事情があり、発注事業者が報酬額等の取引条件を主導的立場で決定しやすくなる 等があげられます。
つまり、 「個人」であるフリーランスは「組織」である発注事業者から業務委託を受ける場合において、取引上、弱い立場に置かれやすい特性があるといえます。
よくある疑問〜フリーランス新法と下請法の違いとは〜
フリーランス新法と下請法(下請代金支払遅延等防止法)は、趣旨としてはおおむね同じで、確かに重複すると思われる部分はあります。
下請法の目的は「下請取引の公正化・下請事業者の利益保護」です。
下請け法は、下請け法適用条件として、親事業者(発注側)と下請け事業者の間で資本金の基準が定められており、親事業者が最低でも1,000万円以上の企業の場合の取引が対象になります。
そのため大きな違いの1つとして、下請法は発注側の企業が資本金1,000万円以上でないと適用外なのに対して、フリーランス新法は1,000万円以下の企業でも対象という点があります。
下請け法では発注側の企業に「義務」「禁止事項」が定められており、勿論多少の詳細はことなりますが基本的な内容は大きく変わりません。
詳しくは公正取引委員会の概要をご覧ください。
https://www.jftc.go.jp/shitauke/shitaukegaiyo/gaiyo.html
フリーランス新法の2つの軸〜取引の適正化と就業環境の整備〜
厚生労働省のフリーランス新法の説明の概要では、内容として大きく2つの目的が提示されています。
1つはフリーランスに係る『取引の適正化』、もう1つは『就業環境の整備』です。どちらも主語はフリーランスへ発注する側の企業です。
取引の適正化
契約条件を書面で提供する
給付の内容、報酬の額等を書面又は電磁的方法により明示することを求められます。
60日以内に報酬を支払う
給付を受領した日から60日以内の報酬支払期日を設定し、支払わなければいけません。
(再委託の場合には、発注元から支払いを受ける期日から30日以内)
禁止行為の設定
・フリーランス側に、責められるべき理由や落ち度、過失がない状態で一方的に、受領を拒否、報酬の減額、返品を行うこと
・相場よりも著しく低い報酬の不当な設定の禁止
・正当な理由なく、指定する物の購入、役務利用の強制
該当行為によりフリーランスの利益を害してはならない
自己のために、金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること。
フリーランス側に、責められるべき理由や落ち度、過失がない状態での内容変更、やり直しの実施。
就業環境の整備
募集を行う際は、虚偽なく正確で最新の情報提供をすること
広告等により募集情報を提供する際には、虚偽の表示等をしてはならず、正確かつ・最新の内容に保つこと。
育児介護等と両立するための配慮
フリーランスが育児介護と両立して業務を行えるよう、申出に応じて必要な拝領をしなければならない。
ハラスメント相談体制の整備
フリーランスに対するハラスメント行為に係る相談対応等の必要な体制整備等の措置を講じなければならない。
契約の中途解除は30日前までに予告
継続的な業務委託を中途解除する場合等には、原則として、中途解除日等の30日前までにフリーランスに予告しなければならない。
フリーランス新法を守れなかった場合の処置
違反行為をした場合、50万円以下、もしくは20万円以下の罰金に処されます。
第五章罰則
第二十四条次の各号のいずれかに該当する場合には、当該違反行為をした者は、五十万円以下の罰金に処する
なお、担当者個人も、会社も合わせて罰せられます。
前条の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対して同条の刑を科する。
但し、すぐに罰則となるのではなく、まずは厚生労働大臣の名で「違反を是正し、又は防止するために必要な措置をとるべきことを勧告」されます。勧告に対して、正当な理由がなく係る措置を取らなかった場合には、「その旨の公表」をされたり「立ち入り検査」を受けたり、「報告を求められる」可能性があります。
これらの対応をしっかりと行わなかった場合に、上記の罰則になる可能性があります。虚偽の報告を行った場合には、20万円以下の罰金に処される可能性があります。
フリーランス新法にあたって対応が必要なこと
受注側フリーランスの対応
フリーランス側が特別に対応する必要があることはないですが、内容を把握し、仮に上述の内容が守られない場合には、企業の発注担当に報告・相談、場合によっては担当部門に別途報告・相談する必要があるでしょう。
逆恨みされてしまい、取引を切られるリスクを不安に思われるフリーランスの方もいるかもしれませんが、事実が厚生労働省から公表される可能性もあるため、一定の抑止力はあると思われます。
違反行為を受けたフリーランスは、フリーランス・トラブル110番を経由するなどして、公正取引委員会・中小企業庁・厚生労働省に今後設置する窓口に申告が可能です。
発注側企業の対応
担当者としての対応
個人としては、上述の内容を理解し、遵守することが求められます。守れない場合、担当者自身も勿論、企業が罰則を受けたり、フリーランス間での評判が広がり優秀なフリーランスに仕事を受けてもらえなくなったりする可能性があります。
企業としての対応
企業としては、契約書などのルールを設定し、フリーランスに発注する可能性のある各担当者に対しての上記内容の理解を促進するための啓蒙活動が必要となります。
国もフリーランス新法に際して相談に応じ、適切に対応するために必要な体制を整備するとしています。必要に応じて相談し、適切な対応を取れるようにしておきましょう。
特定受託事業者からの相談対応に係る体制の整備(第二十一条)
国は、特定受託事業者に係る取引の適正化及び特定受託業務従事者の就業環境の整備に資するよう、特定受託事業者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の必要な措置を講ずるものとする。
おわりに
最後までお読みいただきありがとうございます。
フリーランスという働き方に着実に追い風が吹いてきており、フリーランスを活用する企業も増えてきています。
もしフリーランス検討中でしたら、ProConnectがご相談を承ることも可能です。
ぜひご登録・お問い合わせください。
ProConnect
参考文献
特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス・事業者間取引適正化等法)
https://www.mhlw.go.jp/content/001101551.pdf
特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス・事業者間取引適正化等法)
https://www.mhlw.go.jp/content/001115385.pdf
執筆者
ProConnect編集部
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